健康づくりに笑み筋体操 血糖値を抑制 生活習慣病防ぐ

笑うときに動く顔の筋肉を手でマッサージすることで、笑ったときと同じような心身の状態に近づけ、生活習慣病の予防やストレス解消に役立てようという「笑み筋体操」を筑波大などが考案、普及を進めている。住民の健康づくりにと、本格導入する自治体も出ている。
目や耳から入るさまざまな情報は、大脳の奥にあり、感情などをつかさどる大脳辺縁系で振り分けられる。
 「気持ちがいいという情報が神経回路に行くと、ドーパミンやセロトニンなどの快感物質が作り出されます。すると、気分がすっきりして前向きになるとともに、生理現象として表情に笑いが表れるのです」と、筑波大の林啓子助教授(成人看護学)。
 笑いには、病気を防ぐ免疫の作用を高めたり、体の調子を整えたりする効能があると報告されている。林助教授は、高血糖で多くの合併症が起きる糖尿病患者で、笑いの効果を実験した。

 五十代−六十代の約二十人に、食事後に漫才を四十分間見てもらい血糖値を調べたところ、平均で七十七ミリグラム上昇した。笑うところがない講義を前日に聞いてもらったときは同百二十三ミリグラムで、食後二時間の血糖値の上昇が抑えられたことが分かり、二〇〇三年に米国の糖尿病専門誌で発表、国内外で反響を呼んだ。
■神経回路を刺激
 長期的な効果を研究しようと、落語や漫才のビデオを患者に貸し毎日笑ってもらう実験に入ったが「一人では笑えない」「オチが分かると無理」などの指摘が出て断念。
 林助教授は「これをきっかけに、笑うときに動く筋肉を手で刺激して、通常とは逆の経路から笑いの神経回路を刺激し活発にすることを思い付いた。笑み筋の動きを良くして笑いやすい体質をつくり、笑いを引き出すのです」と話す。
 そして〇五年、名古屋学芸大の山内恵子講師(管理栄養学)らと考案したのが笑み筋体操だ。主な笑み筋は、目の周りの眼輪筋、ほおの大頬骨筋、口の周りの口輪筋で、体操ではこれらをリズム良く動かす。五種類あり①笑み筋を手で横に伸ばす「のばしていい顔」②親指と人さし指でほおの肉を丸く集めて回す「たこやきぐりぐり」③顔全体をこねるようにする「てこねトントン」−がよく行われる。
 座って手軽にでき、糖尿病が悪化して運動療法が難しい人でも取り組みやすく、患者向けの糖尿病教室に取り入れる医療機関もあるという。
■高齢化進展に備え
 埼玉県鶴ヶ島市は、健康づくり計画の中で「一日一回大きな声で笑おう」という目標を掲げ、〇五年十二月に笑み筋体操を導入。市民グループ「いっしょに笑いたい会」と協力し、高齢者施設や公民館で、笑いの出前として笑み筋体操の普及を進めている。
 同市保健センターの吉原正博所長は「今後高齢化が一気に進み生活習慣病が増えると予想され、今から準備が必要と考えています」と説明する。
 林助教授は「緊張するような試験や面接、会議の前にもやってほしい。笑み筋体操は治療法ではないが、将来は笑いの処方箋が出せるようになればと思います」とほほ笑んだ。
2007年  静岡新聞