知らないと損する 高額療養費制度

申請で一定額以上還付
「世帯合算」などで増額も

 高額な医療費がかかったとき、一定額以上を公的健康保険が還付してくれる「高額療養費」制度。使いやすいように四月に手続きを一部変更してから半年強が過ぎたが、いまだに制度の存在自体を知らない人も多く、申請漏れが多発している可能性がある。特に世帯の医療費を合算して払い戻す特例などは、あまり知られていないようだ。

 「もっと早く知っていれば・・・・・・」と嘆くのは香川県の佐々木和彦さん(仮名、45歳)。五年前に直腸がんの手術で入院。二十数万円の医療費を支払った。高額療養費の申請をすれば、十数万円が還付されたはずだった。「最近この制度を知って社会保険事務所に問い合わせたが、時効だと聞いてあきらめた」

申請の時効は2年

 高額療養制度とは、所得などによって自己負担限度額を定め、窓口で支払った金額との差額を還付するもの(図A、B、C)。患者一人ごと、一ヵ月ごと、診療報酬明細書(レセプト)ごとに計算する。時効は二年。サラリーマンに扶養されている妻は夫の所得区分が適用される。
 計算の仕組みはこうだ。例えば七十歳未満の人の場合、通常窓口負担は三割。このため百万円の医療費がかかればまず三十万円を病院で払う。しかし所得区分が「一般」なら本来の自己負担限度額は、図Bのa式から八万七千四百三十円となる。申請すれば窓口負担との差である二十一万二千五百七十円が還付される(Dの第1段階の②)。
 申請先は自分が所属する保険の窓口だ。自営業者などが加入している国民健康保険なら市区町村、主に中小企業の社員などが加入する政府管掌健康保険なら社会保険事務所、主に大企業の従業員が加入している組合管掌健康保険なら、会社の健保組合となる。
 三月まで七十歳未満はいったん窓口負担を支払い、後で申請して還付を受ける仕組みだった。しかし窓口負担をいったん払うことが大変な患者も多かったほか、膨大な申請漏れの可能性もあった。そこで四月から、七十歳未満の人の入院の場合も、自分の保険窓口で「限度額適用認定証」をもらい病院で提示すれば、最初から自己負担限度額の額を払うだけでよくなった。
 ただしこれも十分知られておらず、東京都のある病院では「認定証を持ってくるのは入院患者の一部の人だけ」という。それ以外の人は今まで通り窓口負担の額を払っている。制度を知らないままその後も申請せずに終わる人は今でもかなりいそうだ。
 政府管掌保険の場合「今年の春以降、本人に通知する仕組みにしている」(厚生労働省)。一方で国民健康保険に関し幾つかの市区町村に聞いたところ「きちんと通知している」「一切通知していない」など回答が分かれた。組合健保では通知しているところが多いが、対応はまちまちのようだ。「申請漏れを防ぐため、医療費が高額になったときは、自分の保険に必ず確認したい」(ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さん)。

70歳以上も確認を

 制度そのものは知っていても「世帯合算という制度(Cの4)を使いこなせている人は少ない」(社会保険労務士の小野猛さん)。同一世帯で二万千円以上の自己負担が二件以上発生した場合は合算し、Bの計算式で出したその世帯の限度額を超えた金額を払い戻してくれる特例だ。
 例えばDの事例の場合、夫の通院、夫の入院、妻の通院はそれぞれ二万千円以上なので世帯合算の対象(子は二万千円未満なので対象外)になる。対象となる医療費の合計は百三十万円なので、世帯全体の自己負担額は九万四百三十円だ(Dの第2段階の計算式)。
 窓口で支払った金額は認定証を提示したかどうかで異なるが、どちらにせよ本来の世帯の限度額との差が還付される。ちなみにこの合算制度は「同一の人間が入院と通院でそれぞれ二万千円以上の自己負担があった場合も対称となる」(深田さん)。
 四月から導入された認定証のことを知っていて「自分はきちんと高額療養費を使いこなしている」と思っている人も、もう一段階、世帯合算によって還付される可能性があることを知っておこう。
 こうした制度があっても、高額な医療費が毎月続けば当然自己負担額の累計も大きくなるため「多数該当」という制度もある(図E)。過去一年以内の高額療養費の該当回数が四ヶ月以上になると、四ヶ月目からは所得に応じて自己負担限度額がさらに下がる(多数該当の限度額は表B下段)。ただ多数該当制度も申請が必要。「やはり自分で制度を勉強しておくことが重要」(深田さん)だ。
 ちなみに七十歳以上は三月以前から入院については窓口で最終的な自己負担限度額だけ払えば良くなっていたが、通院や世帯合算、多数該当制度に関しては、一貫して七十歳未満と同様に申請が必要だ。限度額算出の仕組みは七十歳未満とは別。例えば所得が「(高齢者の)一般」の区分なら、同一月の入院にかかった累計額のうち一万二千円を超える額は還付してくれる。「制度を使いこなす恩恵がさらに大きい」(小野さん)といえる。
(田村正之)
2007年11月4日  日本経済新聞