統合失調症 大量投薬見直し 1剤で適量 意欲回復

 統合失調症になった30歳代の女性は、茨城県の精神科医院に入院中、複数の薬を大量に処方され、ほとんどベッドで横になっていた。主治医だった河合伸念さん(現・筑波大精神神経科講師)が本人の同意を得て薬の量を減らし、「第2世代」の薬へ切り替えてゆくと、他の患者と歓談することが増えた。幻聴などの症状がぶり返す時期もあったが、薬の減量開始から2年半で退院。症状は残るものの、社会復帰施設を経て自宅に戻り、家族と元気に暮らしている。                     (大阪科学部 原昌平)

 統合失調症は、約100人に1人という頻度の高い病気だ。原因は不明だが、ストレスや不眠をきっかけに発症することが多い。
 症状には、幻聴が聞こえる、妄想にとらわれるといった「陽性症状」のほか、他者との交流や感情が乏しくなる「陰性症状」、順序立てた作業ができない、ちょっとしたことが覚えられない「認知機能障害」などがある。
 薬物療法が進み、今は発症者の3割が完全に回復、3〜4割は服薬しながら社会生活が可能になる。だが、長期入院も多く、精神科の入院患者の6割近くを占めている。
 主力になる薬は「抗精神病薬」。患者の脳では「ドパミン」という物質による信号伝達が過剰になっていると考えられており、それを抑える作用を持つ。
 1950年代から「第1世代」の薬が使われてきたが、手足が震える、筋肉が硬直する、じっとしていられないなど「錐体外路症状」と呼ばれる副作用が出やすい。それを抑える薬を使うと、便秘などの副作用が増え、下痢も必要になる。さらに睡眠薬なども加え、10種類以上を処方されてきた人も珍しくない。

「第2世代」登場

 そうした副作用が比較的少ないのが「第2世代」の抗精神病薬だ。日本では96年から発売され、現在は5種類の薬が使える。効果や副作用を見極めるため、1種類だけ処方するのが原則とされる。
 ところが、日本独特の「多剤大量療法」が今なお幅をきかせている。薬剤師の研究会が昨年10月時点で全国61病院に入院中の患者9325人の処方を調べると、1剤だけの処方は3割弱にすぎず、第2世代と第1世代の薬の併用も多かった。これでは副作用を減らせない。
 東京女子医大神経精神科教授の石郷岡純さんは「陽性症状をたたくという対症療法の感覚で薬を使う医師が多い。しかも効果が出ない時に薬を替えるのでなく、別の薬を追加するから多剤大量になる」と指摘する。
 多剤大量療法からの切り替えは、①まず従来の薬の量を減らす②第2世代の薬に替える③1剤にして最適な量まで減らす――といった段階を踏み、症状の変化に気を配りながら、ゆっくり進める。

23人中20人で成功

 筑波大講師の河合さんは、2003年から3年間、勤務していた茨城県の民間病院で切り替えに取り組み、多剤大量処方が1年以上続いていた患者23人のうち、20人で成功した。「失敗を恐れず、一時的な症状の悪化にひるまず、薬を減らすことを試みるべきだ」と強調する。
 ただ、第2世代でも量が多いと従来と同様の副作用が出るほか、血糖値が上がることがあり、注意は必要だ、
 「患者が元気になる可能性」を持つ薬の処方の転換。慢性期の患者の陰性症状とされてきた例には、第1世代の薬の副作用がかなりある、という見方もある。社会復帰を促進する意味でも注目したい。
2007年7月31日  静岡新聞