重病化が医療費増招く

受診抑制
 「誰もが、いつでも、どこでも」安心して医療を受けることができる国民皆保険制度は、言うまでもなく健康保険料と医療費(窓口負担)によって支えられている。
 ところが近年、国民健康保険(国保)の保険料未納だけでなく、医療費を払わない、あるいは払えない人も増えてきている。さらに、病気になっても治療を我慢する「受診抑制」も進んでいる。これは看過できない。

マイケル・ムーア監督が映画「シッコ」で鋭くメスを入れた米国の医療事情は決して遠い国のことではない。皆保険制度がなく、民間の保険会社が頼りの米国では、六人に一人が無保険、治療が受けられずに年間一万八千人が死んでいく。日本もまた、医療はお金次第の国にしてはならない。
 静岡県立三病院(総合、こころの医療センター、こども)では、一年以上支払いのない診療費未収金が、昨年度末までの累計で一億九千七百万円にも上がった。
 明確な理由がないのに払わないという人が58%もいた。もちろん、支払い能力があるのに払わない「逃げ得」を放置するわけにはいかない。だが、最も多いのは収入が少ないため医療費の全額または一部が払えないケースである。高齢者だけでなく、若い世代にも増えてきている。
 所得が少なく生活が苦しい場合、生活保護で医療扶助を受けることができる。実は国が負担する生活保護費約一兆九千五百億円(二〇〇七年度予算ベース)のうち約五割を医療扶助が占めている。
 問題は、生活保護を受けるまでに至らない低所得者の間でも受診抑制が起きていることだ。
 厚生労働省調査では、国保料滞納世帯が昨年、四百八十万五千世帯を超えた。一年以上の滞納者には、保険証を取り上げて「資格証明書」を出したり、「短期保険証」で猶予を与えたりしているが、収納率向上にはつながっていない。
 年収二百万円以下の人が一千万人を超えたといわれる。日雇い、フリーターなども依然多く、二十−三十代のワーキングプアが増えている。生活費に余裕がなく、「払いたくても払えない」という実態は、社会全体の問題として深刻に受け止めなければならない。
 セーフティーネットからこぼれ落ちる人をどう救うか。国保の財源も国庫補助を減らし続け、国民に負担を押し付けてきたが、これも限界に来ている。保険料の算定見直しや、個々の事情に合わせた減免措置の拡大も考えなければならない。これ以上、受診抑制が進めば、一段と重病化し医療費を増やすという逆効果を生んでしまう。
2007年10月24日  静岡新聞