病院の診療機能レベルダウン 「賢い患者」を目指そう

田舎の駅前クリニックでも、公的病院の診療機能のレベルダウンという「医療崩壊」の足音をひしひしと感じる今日このごろである。「○○病院では糖尿病の担当医が退職し、専門外来が閉鎖された」「△△病院は来年から循環器の医師はゼロになりそうだ」−。そんな声が、あちらこちらから聞こえてくる。
 「三時間待ちの三分診療でも、地元の病院で用が足りていたあのころはよかった」と慨嘆する時代が早晩やってくるかもしれない。その時には、裕福な「勝ち組」は国内の医療特区や海外の私費病院で手術を受け、大多数の「負け組」は不便をかこちつつ、重い足を引きずって遠くの病院まで通院する、ということになるのだろうか。

 県内でも私立病院を合併し、医師の数を確保して診療レベルを維持しようという動きがあるし、全国に目を向ければ、県立病院と私立病院の合併・合理化を既に終えた高知県、同じく県立と私立の合併を模索中の山形県など、水面下の動きは慌ただしい。赤字のひどかった福岡県は県立四病院すべてを民営化してしまった。住民・患者の立場からは、病院が減り不便になっただけ、という事例もあるようだ。
 保険証一枚あれば、貴賎貧富の差なく一定水準の診療を享受できる。WHO(世界保健機関)が医療サービス世界一と認め、日本が世界に誇れる医療システムである。多少の不便は増したとしても、どうしたら現状の保険診療の中核部分を維持できるのか、を真剣に考えるべき時期である。
 日本の公立病院は法律、条例、予算に縛られ、患者数−収益が増えても医師の数は増やせない。人手を増やさないまま、社会からの要請を次々と追加業務として積み増すから、真面目な医師ほど燃え尽き、立ち去っていく。さらには、いくら患者のためと身を粉にして働いても結果が悪ければ、よく悪口雑言、悪くすれば警察沙汰というありさまではなおのことである。
 医療崩壊寸前というこの難局に当たり、病院や行政に文句を言うだけでは事態は改善しない。政府の「医療政策」に、有権者・納税者として厳しく目を光らせることはむろん大切だ。しかし、それと同時に草の根のレベルで一人ひとりが「賢い患者」になるように務めてみませんか。
 自分の症状や悩みを短時間で医師に理解してもらうためのメモ、服用している薬が分かる「おくすり手帳」を持参する。まず近きより始めよ、である。病院のベッドや医師たちの時間、検査・治療機器など、限られた医療資産を効率よく利用し合う工夫と努力が今後ますます不可欠になると言えるだろう。


執筆者略歴
◇いとう・かずき氏
東京都出身。県立総合病院消化器科医長などを経て、02年に焼津市に「肝臓病・子育てよろず相談 伊東クリニック」を開業。専門は、難治性肝疾患(肝硬変・肝がん)の診断と治療。